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Welcome to the Underground World

*見えないぼくのバレンタイン(※腐向け)を探しつづけて

今日はバレンタイン当日。
しかし生まれてこの方モテたためしのない俺にとって
そんな日はクリスマスの次に無縁なわけで。


「今年もマサキ君はお母さんにしかもらえないという、いつも通りのバレンタインっぽいな」
「うっさいショウヘイ。くっそ、お前だけたくさんもらって、くっそ」
「嘆くな。全部義理だ」


そんなことわかってる。
と言って昇降口を出る。
結局帰りまで誰にももらえなかった…。
これは家に訪問して来るのを待つしかないのか…。


「じゃ、俺部活あるから」
「おー頑張れショウヘイ」


ショウヘイはチョコの入った紙袋を揺らして柔剣道場へと入っていった。


剣道なんて汗臭いスポーツがいいとか最近の女は狂ってやがる…帰宅部こそが最強じゃないか。
なんてことを思いながら高校を出て電車に揺られていた。


駅を出た頃には辺りはすっかり真っ暗で、まだまだ寒い風が吹く中
駐輪場に向かうと、誰かが俺の自転車のそばに立っていた。


「あのー、自転車出せないんでちょっとどいてくれませんかね」
「あっ…あの、これ、もらってください!」


は? と差し出された紙袋を受け取ってしまった。
よく見るとそいつは俺なんか凡人以下とみなされても仕方がないくらい美少年で
耳まで真っ赤にして突っ立っている。


その美少年を訝しく思いながら紙袋の中身を確認すると可愛くラッピングされた袋があった。


「えっ…と、何これ」
「ば、バレンタインの、チョコ、です」
「は…?え?は?」


何言ってんだこの美少年は。
まさか周りに DQNが潜んでて…なんてオチじゃなかろうな…。
そう思い辺りを見渡すが俺と美少年以外人の気配はしない。


「あの、僕、マサキ君の事が…!」


なんでこいつ俺の名前知ってんの?と思ったのと同時に後ろから俺の名前を呼ぶ声が駐輪場に響いた。


「ショウヘイ?部活は?」
「ん?なんかミーティングだけだった。てかこの超絶美少年誰?俺にもそのDNA分けて欲しい」
「アホかお前…。っておい!どこ行くんだ!」


俺がショウヘイと話してる間に美少年は走り去ってしまった。


「てかマサキお前チョコ貰ったんだ」


勝手に紙袋の中身を覗きチョコクッキーうまそーとつぶやくショウヘイ。


「ショウヘイ、今の美少年の高校ってさ」
「あ?星陵だろ?何、このクッキーくれたのあの美少年?
 いくら恥ずかしがりやでも男に変わりに渡させるのはどうかと俺は思うんだけど」
「くれたのが男本人だったりして…」
「笑えないっすマサキ君」
「ですよねー」


この場にいなかっただけで女の子から頼まれたものだったんだろう。
そりゃ美少年も男にクッキー渡す羽目になったんだから顔真っ赤になるわな。


「どーする?明日猫さんに聞いてみる?」


俺は適当にそうだな。
と呟いて家に帰った。


次の日。


ショウヘイに引っ張られて一階上のクラスに出向いた。


「猫さんいるー?」
「猫さーんお呼ばれされてるよー」


猫さんこと猫田さんは今行くと言って読んでいた本に栞を挟んだ。
猫さんを連れて暖房の付いた空き教室に入る。


「で、何の用?」
「猫さんの知り合いの中に星陵高校の人っている?」
「まあそれなりには」
「頼みがあるんだけど」
「ん」


猫さんが右手を俺たちに突き出す。
ショウヘイは猫さんの手の平に飴玉を5個ほど置いた。


「で?何してほしいの?」
「星陵の美少年を探して欲しいんだけど。勿論名前だけでもいい。できれば会いたい」
「は?美少年?あやふやすぎるよバカ」
「猫さんならなんとかなるかなって」
「褒めても見つかる確率が上がるわけじゃないぞ。てか高校がわかってるなら人を頼らず自分達で探せ」
「猫さんのが多分早いから」


あっそ、と呟いて猫さんはケータイを取り出しメールを打ち出した。


「ありがと猫さん」
「お礼なら探してくれてる子達に言ってよね」


「んじゃわかったらメールする」
といって猫さんは空き教室を出て行った。


「猫さんってなんなの?」
「マサキ知らねーの?できる事なら飴玉あげればやってくれるいい人だよ」
「何その厨ニ…」
「ははっそれ猫さんに昔言ったら暫く出会い系サイトのメールが止まらなかった」
「地味にやだな、それ」


猫さんのメールは5時間目の最中に届いた。
美少年の名前は青山ヨウというらしい。
にしても猫さんに頼んだのが昼休み…確かに早い、のかもしれない。


「あ、猫さんさっきはありがとう」
「ん?ああ。別にいいよ。私はメールしかしてない。」
「猫さんは、手下とかがいるの?」
「ショウヘイが変な事を吹き込んだ?」
「え、違うけど」
「ああ、そう。そうだなぁ、マサキ君は人に頼られたりするのは好き?」
「まあ、それなりには」
「人に頼られて自分は必要されてるって強く思う人がたまーにいるんだよね」


猫さんはニコニコしたままそれから先は口を開かなかった。
つまりその人達をうまく使ってるってことだろうか。
本当に厨ニだなと思ったけど、出会い系サイトのメールで
ケータイのメールボックスがいっぱいになるのは嫌なので黙って置いた。


猫さんによると教えてくれた人がその青山ヨウを連れてきてくれるらしい。


「ショウヘイどうする?」
「どうするも何も部活だから一人で行けよ」
「ついて来ないのか…」
「おいおい。その青山ヨウがついでにってお前にチョコくれた女子連れてきたら俺気まずいだろ?あと部活あるし」


さっさと行けバカ。
と叩かれて、星陵と俺の高校の丁度真ん中辺りに位置するファミレスに向った。


「あ、いた」


店内に入り青山ヨウを発見。
店員さんの声かけを断わって席へ向った。


「ん、マサキ君?」
「あ、はい」
「青山ヨウ君だけど、この人であってる?」
「合ってます」
「そっか。じゃあアタシは帰るから」
「え、あ、はい」


この女の子がチョコくれた人じゃないのか。
まあ対応がそれっぽくないし。


「えーと、昨日はチョコクッキーどうも。美味しかったです」
「え、あ…はい」


何故か顔を赤らめる青山君。


「チョコクッキーくれた娘に伝えといてください」
「え…?」
「え?」
「いえ、つ、伝えときます」
「そう?にしても青山君も災難だったな。まさか男にチョコ渡す羽目になるなんてさ」
「そう、ですね。はい」
「あ、ごめん。何か飲む?」
「いえ…僕もう帰らないと…」
「そっか…なんか無理矢理悪かったな。あ、あとさ」
「なんですか…」
「メアド、交換しようぜ」
「あ、うん!」


そのあと何も食わずにファミレスをでるのは申し訳なかったので、そのまま夕飯を食べて帰宅した。


「お、メールきてる」


風呂上がりにケータイを確認したら、ショウヘイと青山君からメールがきてた。
ショウヘイからのメールは青山君はどうだった?って感じのメールで
青山君はチョコクッキーの渡し主に感想を伝えたら喜んでいた、というものだった。


暫くメールを続けていたら見知らぬメールアドレスからメールが来た。


「はじめ、まして。チョコクッキー、美味しいって…って、え?」


びっくりし届いたばかりの青山のメールを開くと
例の彼女に勝手にメールアドレスを教えてしまってごめんなさいという内容のメールがきていた。
青山に別にいいよと返事し、例の彼女、マイちゃんにメールを返す。


ああ神様。
俺にもモテ期ってあったんですね。


それから暫く。
何度か会おうと誘ったが、そのたびに用事が重なり延期されていたマイちゃんから
日曜日に遊ぼうとメールが来た。


二つ返事で返信し、日曜日を楽しみに待った。
日曜日、マイちゃんに始めて会った。


「こんにちわ!」
「マイ…ちゃん?」
「はい、待たせてしまってすみません」
「いや、いいよ」


青山に負けず劣らずの美少女振りである。
星陵レベルたけーなおい。
そのままマイちゃんを連れて街を適当にぶらついた。


夕方になり、マイちゃんと駅のホームで電車を待っているときに、俺はふとずっと疑問に思っていたことを尋ねた。


「マイちゃんはなんで俺にチョコ渡す気になったの?」
「え…っと、で、電車の中で一目惚れしちゃって」
「ふーん…」
「……」
「どした?気分悪いのか?」
「いえ、実は…チョコ、本当の渡し主私じゃないんです」
「は?え?…は?!」
「ごめんなさい…なんかもう、本当、ごめんなさい。
 あ、ドッキリとかそんなんじゃないんです!それだけは信じてください」
「わ、わかった。で、どういう事…?」


マイちゃんは数秒押し黙り、ゆっくり口を開いた。


「私、本当は青山ヨウの妹なんですよ」
「………?」
「兄弟なんです。あと、マサキさんにチョコを渡そうと、チョコクッキーを作ったのは私の兄です」
「………??!」


あまりの唐突さに頭が付いていけない。


「マサキさんは、ホモとか嫌いですか?」


徐々に増えてきた人のざわめきに掻き消されそうなほど小さな声でマイちゃんは言った。


「正直、理解はできない」
「ですよね。兄はマサキさんのこと、好きなんですよ。恋愛的な意味で。」
「で、気持ちが先行してチョコクッキーを渡しちゃったのはいいんですが、
 マサキさんが兄を突き止めてしまったのでどうしようってことになって…」
「そりゃ、制服でバレるよ…」
「え、兄さん制服で渡したんですか?バカじゃん…」


二人で顔を見合わせ苦笑いをした。
マイちゃんは続ける。


「兄は私に自分の変わりになってくれって言ったんですよ。
 男が男に好かれるなんてマサキさんに知れたら友達でいてくれないかもしれなくて怖いって。
 私も最初は協力してあげようって思ったんですけど、
 やっぱりはっきりした方がいいと思って今日遊びに誘いました。
 どうか兄に、返事を言ってあげてくれませんか?」


「……」


俺とマイちゃんは無言のまま電車に乗り、別れた。
帰宅後、ケータイを手に悩んでいたらヨウ本人からメールがきた。


「マイちゃんとのデート楽しかった?」
「なあ青山、今から会えるか?」
「え、今から?大丈夫…だけど。どこで会うの?」


俺はまた、お互いの家の中間辺りにある場所を探し、そこを集合場所にした。


「あ、マサキくん」
「よう…」
「…どうしたの?」
「ああ、ちょっと歩こうぜ」


公園内の自販機であったかいお茶を買ってぶらつく。


「チョコクッキー、くれたのヨウなんだってな」
「…何いってるのー、マイちゃんだよ」
「マイちゃんから全部聞いた。」
「…バカ妹…」
「…正直俺は男同士とか無理だ…」
「だろうね。マサキ、全身から女好きって感じが醸し出てるからさ」
「そうか?……だけどさ、ヨウのこと、友達としてはすげー好きだから」
「それは慰めかな?」
「本気だよ。美少年で超いい奴」
「褒めすぎだよー」
「だからヨウがホモとかバイだからって友だちでいるのはやめたくない」
「うん…」
「俺はお前の好きって気持ちに友達としての好きしか返せねーけど、それでもいいかな」
「十分すぎるよ…ありがとう」
「お、おう。俺もありがとな」
「ん、あ、僕がマサキのこと好きなうちはマイには手だしさせないからね。てかマイ彼氏いるし」
「えっ…?!」
「僕の妹だもん。彼氏がいないわけがない」
「とんだシスコンだな…なんかマイちゃんにも悪いことしたな…」
「ん、楽しかったって言ってたから多分大丈夫だよ」
「そっか」


ねえ、と歩きながら雑談していたらヨウが口を開いた。


「手を繋ぐのは、あり?なし?」
「友達だからありだろ」
「じゃあ繋いでいい?」
「おう…」
「ん、へへ。なんか、恥ずかしいな…」
「だな〜」


ヨウがそのまま泣き出したから、俺は近くにあったベンチに座ってヨウが泣き止むまで手を繋いだまま待った。


「で?マイちゃんとは別れちまったの?」
「んー?ああ…。俺がマイちゃんをおこらせちゃってさー」
「ばっかだなぁお前…二度とこないかもしれない貴重なモテ期を…」
「うっせーばか」


軽くショウヘイを蹴り階段を登ると猫さんがいた。


「おはよう猫さん」
「おはようマサキ君。夜中遅くまで出歩くのは風邪を引く恐れがあるからやめたほうがいいよ?」
「え?」
「ん?お、猫さんじゃーんおっはー」
「おはようショウヘイ君。それじゃあ私は職員室に用事があるから」
「ばいばーい」


ショウヘイが呑気に猫さんに手を振る。


「なあ…」
「あ?」
「猫さんって何者なの?」
「猫さんは猫さんっしょ」


こいつに聞いた俺がバカだった…。
階段を上がろうと足をふみだそうとしたらマナーモードにしていたケータイが震えた。


「今日一緒に帰りませんか?」


ヨウからだった。
俺はいいよ、帰ろうとメールを返し、先に行ってしまったショウヘイを追いかけた。




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